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TFGニュース 2023年10月号

中小企業の健全性支援マガジン(毎月1日発行)
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2023年10月号 No.386
経営のお役立ち情報

Ⅰ 資産が毀損した場合の税務的な取り扱いについて

― 税理士試験の問題から ―
 
 今年も能登地方が大きな地震に見舞われ、さらに全国あちらこちらで大雨による災害に見舞われるなど、自然災害と切っても切り離せない1年となりました。これらの災害によって自身が所有している資産が毀損した場合、税制面でどのような取り扱いがされるのでしょうか? 実は、本年度の税理士試験・所得税法においてこの問題に真正面から切り込んだ問題が出題されました。今回はこの問題に対する回答を提示することで資産が毀損した場合の税務的な取り扱いについて明らかにしたいと思います。

■ 問題

 「自然災害により居住者の有する以下の不動産が被害を受けた。」このとき、その被害による損失は所得税法上どのように取り扱われるか。それぞれについて説明しなさい。
  なお、損失金額の計算方法についても触れること。
  1. 事業の用に供している賃貸用不動産
  2. 自己の居住の用に供している不動産
  3. (別荘など)主として保養目的で所有している不動産
  最大のポイントは3種類に分類されていることでしょう。もちろん、それぞれ取り扱いは異なるのですが、特に3.については意識している方はほとんどいらっしゃらないのではないでしょうか。
 では、それぞれの回答です。

1. 事業の用に供している賃貸用不動産について

 事業用という一定規模の所得が見込まれる中での損失ですので、直感的に経費になりそうだな、というイメージは湧くのではないでしょうか。もちろん、その考えで間違いはなく経費となるのですが、その損失の金額は被災直前の未償却残高を基礎として計算し、保険金等により補填される部分は除かれます。なお、補填された保険金等については所得税が課されることはありません。この点、保険金収入も益金となり所得金額を構成する法人税とは扱いが異なりますので注意が必要です。
所得税の場合、話はこれでは終わりません。損失の金額を必要経費に算入したことで不動産所得の金額がマイナスとなった場合、その損失が生じた年分の他の所得との間で損益通算が可能になります。さらに、損益通算をしてもなお損失が残る場合には翌年以後3年間(一定の場合には5年間)、繰越控除が可能です。なお、一般的に繰越控除が可能なのは青色申告者のみなのですが、災害により被災した資産の損失についてはいわゆる白色申告者についても青色申告者と同様の繰越控除が認められています。また、青色申告者については繰越控除の適用に代え、前年分の所得税について繰戻し還付の適用を受けることができます。
問題に対する回答としては以上なのですが、ここでは事業的規模といえない賃貸用資産の場合についての扱いにも触れておきたいと思います。損失の金額の計算方法についての違いはなく、必要経費に算入されることも事業用の場合と変わらないのですが、必要経費に算入される金額の範囲が異なります。事業的規模といえない場合、不動産所得の金額が0となるところまでしか必要経費とはなりません。つまり、他の所得との損益通算や翌年以降の繰越控除の可能性を不動産所得の金額の計算の中で排除しているのです。さらに申し上げると、この後出てくる雑損控除さらには雑損失の繰越控除の適用の可能性もあります。詳しい話はここでは割愛しますが、これらを適用する場合には損失の金額を必要経費に算入することはできません。

2. 自己の居住の用に供している不動産

 所得税法の規定としては雑損失の金額を計算し、その金額を用いて所得控除の一種である雑損控除、さらには雑損失の繰越控除の適用の可能性がある、というのが直接的な回答になります。
 雑損失の金額とは、居住者が居住している不動産について災害による損失が生じた場合においてその年におけるその損失の金額が足切限度額(原則として課税標準の合計額の10%相当額)を超える場合における、その超える部分の金額のことをいいます。ここでの損失の金額は被災直前のその不動産の価額または取得費相当額の合計額を基礎として計算し、その災害に関連してやむを得ない支出をした場合にはその支出した金額も含まれますが、保険金等により補填された部分は除かれます。
 雑損失の金額がある場合には所得控除の一種として他の所得控除の適用の前にその年分の課税標準から控除します。控除してもなお雑損失の金額がある場合には、翌年以後3年間(一定の場合には5年間)、繰越控除が可能です。なお、この繰越控除は発生所得の区分に関係なく適用を受けることができます。給料だけで普段は確定申告に縁のない方でも申告することで適用が可能となるのです。
 さて、問題は所得税法上の規定を説明せよ、ということなので回答は以上となりますが、ここで災害減免法による税額軽減の規定について触れておきたいと思います。災害によって受けた住宅や家財の損害金額(保険金等により補填された部分を除きます)がその時価の2分の1以上で、かつ、災害にあった年の所得金額の合計額が1,000万円以下のときに、雑損控除の適用に代えて災害減免法の規定によりその年分の所得税を軽減又は免除するものです。この場合も確定申告は必須となります。

3. (別荘など)主として保養目的で所有している不動産

 この場合、所得税法上の規定として設けられているのは、その損失の生じた日の属する年分又はその翌年分の譲渡所得の金額の計算上控除すべき金額とみなす、という規定のみです。
損失の金額は直前の取得費相当額を基礎として計算し、保険金等により補填される部分は除かれます。
 換言すれば、譲渡所得が発生しないのであれば救済される余地はありません。ある種のぜいたく品に対してまでは所得税法は考慮してくれていない、ということなのかもしれません。

Ⅱ 特 別 の 寄 与

― 相続人以外にも財産がもらえます -
 
 内閣府の「令和5年版高齢社会白書」によると、日本の総人口は令和4年10月1日現在で、1億2,495万人です。その内、65歳以上の人口は3,624万人で総人口に占める割合(いわゆる高齢化率)は29.0%です。この高齢化率は昭和25年には5%にも満たなかったのが、昭和45年に7%を超え、平成6年には14%を超えその後も上昇してきました。また、高齢化社会に対応すべく設けられた介護保険について、介護保険の被保険者で要支援、要介護の認定を受けた人の割合は65歳から74歳では要支援が1.4%、要介護が3.0%であるのに対して、75歳以上では要支援が8.9%、要介護が23.4%と年齢が上がるほど認定を受ける割合が高くなります。要介護者等からみた主な介護者は同居している人が54.4%で、その主な内訳は配偶者が23.8%、子が20.7%、子の配偶者が7.5%となっています。相続の場合においても被相続人に対して療養看護等の貢献をされた方に「寄与分」制度がありましたが、それは相続人に限定されていました。しかし、2019年に「特別の寄与」制度が創設され、相続人でない「子の配偶者」が相続人に対して金銭を請求できるようになりました。ここでは、以前よりあった「寄与分」制度についてふれた後、この「特別の寄与」制度についてご説明させて頂きます。

■「寄与分」制度とは

 相続人が複数おられる場合(共同相続人)の遺産分割は遺言又は法定相続分(民法)に基づいて行われますが、共同相続人の中に被相続人の財産を維持又は増加するのに特別に貢献をした方がいればその貢献を考慮して相続分を計算する制度のことを「寄与分」制度といいます。ここでの貢献は対価を得てしたものは除かれます。つまり、無償(対価といえないほど低額の有償を含む)で行うのが前提です。
  対象者は、法定相続人です。もし、長男の妻が義理の親の療養看護に貢献しても民法上報いられなく、共同相続人全員の同意で長男の相続分を多くしたりするといった手段しかありませんでした。
  寄与の内容は、療養看護の他に、家事従事、財産上の給付があります。又、請求は遺産の分割協議として請求し、家庭裁判所への申し立ての期限は、相続開始から10年(令和5年4月1日以後)です。

■「特別の寄与」制度とは

 特別の寄与とは、無償で被相続人に対して療養看護その他労務の提供をし、財産を維持又は増加するのに特別の貢献をした相続人以外の親族(特別寄与者)が、相続人に対して寄与に応じた金銭の支払いを請求することができる制度です。「寄与分」と同様無償でする必要があります。親族とは、6親等内の血族及び配偶者、3親等内の婚族をいいます。また、相続放棄や欠格・廃除によって相続権を失った人はもとより内縁関係にある人は親族ではないので「特別の寄与」は認められていません。相続人に対して寄与に応じた金銭の支払いを「特別の寄与料」といいます。2019年7月1日以降に開始した相続で特別の寄与料を請求することができます。
  特別の寄与の内容は、療養看護の他に、家事従事です。家庭裁判所への申し立ての期限は、特別寄与者が相続の開始があったこと及び相続人を知った時から6か月を経過したとき,又は相続開始の時から1年以内です。

■ 「特別の寄与料」

 特別の寄与料については原則として、当事者間の話し合い・協議によって進めることになります。
特別の寄与料の金額・計算方法について法律上の規定はありませんが、
療養看護の場合、相続人が療養看護をして貢献した場合の「寄与分の額」を参考にして計算します。以下の算式です。

 療養看護の日当(第3者が行う場合の金額) × 療養看護日数 × 裁量割合
  
 ・裁量割合とは、特別の寄与者が介護の専門家でないこと等により、裁判所が寄与分を計算する際に用いるもので一般的には0.5~0.8です。
 ・療養看護日数については後日もめないよう看護日誌を作成しておくべきです。

家事従事の場合も以下の算式となります。

 特別寄与者が通常得られたであろう年収 × (1 - 生活費控除割合) × 寄与年数 - 現実に得た収入

 生活費控除割合とは、家事従事の場合労働の対価として生活費などの形で支出される場合があるので、家事収入からこの分を差し引く指標です。

■ 特別の寄与の税務上の取り扱い

 特別の寄与者にとって「特別の寄与料」は被相続人から遺贈によって取得したものとみなされます。支払金額が確定すれば相続税の対象となります。特別寄与者は被相続人の1親等の血族(直系卑属である代襲相続を含む)及び配偶者以外の者であるため相続税額は算出した税額に20%加算したいわゆる2割加算の対象となります。特別寄与者の申告期限は、特別寄与料の支払額が確定したことを知った日の翌日から10ケ月以内です。
   特別寄与料を支払った相続人は、特別寄与料を債務控除として控除した額が課税価格となり相続税の計算をします。相続税の申告をした後に特別の寄与料の支払いが確定した場合、確定したことを知った日の翌日から4ケ月以内に更正の請求をすることができます。

Ⅲ ふるさと納税制度の変更

― 本来の姿に戻れるか -
 ふるさと納税をご利用の方にはうれしくない情報ではございますが、令和5年10月1日より納税のルールが変更・改正されました。気に入った自治体に寄付をするとその負担額から2,000円を差し引いた金額が翌年の税金から控除され、寄付のお礼で返礼品がもらえる仕組みです。
 
 では今回のルール変更・改正についてご案内させていただきます。

■経費ルールの変更・改正

 本来、ふるさと納税に割り当てられる地方自治体の必要経費には5割ルールというものが存在します。仮に10,000円寄付すると、返礼品は寄付金額の3割までとなっているので3,000円ほどの返礼品となります。このうち返礼品金額の3,000円を含んだ5,000円が経費として考慮され、実際に自治体に寄付される金額は、5,000円となります。この経費に対してメスが入りました。本来は自治体が5割の寄付を受けられるように作られた仕組みでしたが、ここに隠れ経費が食い込んでしまっていて本来の目的が達成できていませんでした。以下の表にまとめてみました。
 
既存の経費とみなす費用
返礼品を調達する費用
送料
広報費用
仲介業者に支払う手数料
新しく経費とみなす費用
(隠れ経費)
ワンストップの特例事務の費用
寄付金受領書の発行+発送費用
その他の付随費用
 
 
 新しい既定の変更により、地方自治体は寄付の額の5割に相当する費用、返礼品の費用、送料、広報に関する費用をカバーしなければならなくなりました。一部の地方自治体では、これらの費用を加味すると支出が5割を超える場合もあります。
 こうしたルール変更・改正によって、寄付額の増加(お得度の減少)が見込まれたり、返礼品の品質に影響が出る可能性があるなど様々な懸念が生じています。

■地場産の基準の変更・改正

 返礼品は地場産であることが条件というルールが変更されます。地場産とはその地域で創られたもののことです。では、具体的に。
 1.熟成肉、精米の返礼品は原材料が同一都道府県産のみ
  外国や他地域の肉を地元で熟成させて熟成肉として返礼品にすることができなくなり、精米も他地域のコメを精米だけして地元の返礼品にすることができなくなります。
 2.他地域産の品と地元産の品をセットにする場合は地元産の品が全体価格の7割以上にならなくてはならない。

■起こりうる影響

1.寄付金が上がる
 当然のように隠れ経費分上乗せされる可能性があります。従って同じ商品であれば、寄付金額が上がってしまう可能性はあります。
2.返礼品の質が落ちたり、量が減る
 経費には返礼品の費用も含まれていますので、返礼品の費用を抑えて経費を5割に収めようとすることは充分に予想されることです。
3.返礼品の種類が減る
 地場産の条件が厳しくなることでこれまで返礼品として人気だったものが返礼品として提供できなくなることが考えられます。ルール改正後の地場産のものには注意が必要です。基準を満たさない返礼品が掲載不可となり申込できなくなり、返礼品の種類が減少することも考えられます。

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 いまだ活用がよくわからない生成AI。国内外の生成AIツールをまとめたサイトです。参考までに


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電子帳簿保存法の宥恕期間が間もなく終了です。

電子帳簿保存法は2021年度に改正が行われ、2022年1月1日より改正された電子帳簿保存法が施行されています。ただし、2023年12月までは電子取引のデータ保存の義務化についての「宥恕期間」となっているため、2024年1月までに対応が必要です。
    
 ☆対応しておくべきこと
 
  1.電子取引の状況を把握する
   全ての取引を整理し、電子取引に該当するかを把握しましょう。
   紙を介さない取引全てが電子取引に該当します。
 
  ※電子取引に該当する取引
   (1)メール添付で交付・受領した請求書
   (2) ウェブサイト上でダウンロードした領収書
   (3) スマホアプリ決済の利用明細
   (4) インターネットバンキングの振り込みに関する取引情報
   (5) クラウドサービスで交付・受領した請求書や領収書など
 
  2.保存方法や場所を決める
   データの保存方法や場所を決めましょう。電子取引データは、適切な取引を証明するために4つの要件のうちいずれかを満たした状態で保存しなければなりません。
   (1) タイムスタンプが付与されたデータを受領する
   (2) 速やかにタイムスタンプを付与する
   (3) データの訂正や削除した履歴が残るシステムまたは訂正や削除ができ  ないシステムを利用する
   (4) 改ざん防止に関する事務処理規定を作って守る
 
  3.システムや規定などの準備をする
 
※費用は掛かりますが上記満たしたうえ、会計入力自動化もできるシステムがあります。
詳しくはTFG分担者迄お尋ねください。
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