中小企業の健全性支援マガジン(毎月1日発行)

2026年5月号 No.417
経営のお役立ち情報
Ⅰ貸付用不動産の評価方法の見直し
― 相続税評価額の新たなルールの創設 ―
相続税・贈与税の課税における不動産評価について、相続税法の時価主義下で貸付用不動産に市場価格と相続税評価額には乖離の実態があることが課題となっていました。
土地の相続税評価額は路線価等により算出されますが、この路線価等は一般的には市場価格より低く設定されています。さらに、貸付用不動産となると所有者の権限が制限されますので、貸付用不動産の相続税評価額を算出するときは、借家権割合や借地権割合を考慮した評価額の減額調整が行われます。土地が自宅等の自用地である場合には、路線価方式又は倍率方式で評価額を算出しますが、貸家や賃貸マンション等の貸家建付地である場合には、自用地評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)で評価額を算出します。住宅地では借地権割合は60%か70%程度になることが多く、仮に借地権割合が60%であれば、借家権割合は全国一律30%なので、賃貸マンションで満室ならば賃貸割合は1なので、1-60%×30%×1=82%、つまり自用地評価額よりも18%評価額を下げることができます。借地権割合が70%であれば、21%評価額を下げることができます。なお、借地権割合は路線価図、倍率表で確認できます。
次に建物の相続税評価額は固定資産税評価額となりますが、これも購入価格の50%から70%程度で、さらに建物を賃貸していれば評価額を借家権割合30%減額できます。
以上、一般論ではありますが市場価格と相続税評価額には乖離があることがご理解頂けたのではないでしょうか。こうなりますと、相続が開始する前までに所有不動産を貸付用不動産に、或いは貸付用不動産を購入して相続税を減額したいと思いたくなるのは心情的に理解はできますが、このことで相続税を意図的に減額しているとみられる事例も散見されていました。それで令和4年4月19日の最高裁判例の事例で国税庁は相続開始前に借入をして節税目的で購入した賃貸マンションについて、その取得価額が13.8億円に対して財産評価基本通達に基づいた相続税評価額が3.3億円であることを財産評価基本通達総則6項(内容は、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の評価は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」です。)により否認し、納税者が敗訴になりました。「行き過ぎた節税対策」になるとされたのです。このようなことが背景として市場価格と相続税評価額との乖離をなくす必要性の機運が高まり、また、財産評価基本通達総則6項は納税者の予見可能性を損なうという指摘もあります。評価方法の明確化等が要請されて今回の改正に至りました。
■ 令和8年度税制改正による変更点
被相続人等が課税時期(相続、遺贈又は贈与)前5年以内に対価を伴う取引により取得又は新築した一定の貸付用不動産については、課税時期における通常の取引価額に相当する金額(原則として、取得価額を基に算定されます。)により評価することになりました。
上記の「通常の取引価額」は、課税上の弊害がない限り、取得価額を基に地価の変動等を考慮して計算した価額の100分の80に相当する金額によって評価することができます。
また、「地価の変動等を考慮して」とのことですが、どのように考慮するのかは明確になっていません。「取得した年の路線価」と「課税時期の路線価」を比較して、地価の変動を計算すること、建物は定額法による減価償却により減価を反映することなど、各不動産の実態に即することが考えられます。
この改正は令和9(2027)年1月1日以後に開始する相続、遺贈又は贈与により取得した貸付用不動産に適用されます。しかし、この改正を通達に定める日までに、被相続人等が同日の5年前から所有している土地の上に新築した家屋(同日において建築中のものを含む。)には適用されません。現行通りの評価方法です。
なお、「貸付用不動産」の具体的範囲は不明です。貸付先の違いで適用有無の違いはどうか、使用貸借は含まれるか、同時取得する構築物は含まれるかなどです。また、「この通達に定める日」も不明です。
■ 不動産小口化商品について
不動産小口化商品とは、複数の投資家から出資を募り、不動産を共同で運用する仕組みです。特定の高額不動産を1口数万から数百万円程度の小口に分割し、複数の投資家が共同で投資する仕組みの商品です。賃料収入や売却益が、出資額に応じて投資家分配されます。商品として運用されている貸付用不動産は路線価等で評価されます。従って、これも取得価額と相続税評価額には乖離が生じていました。
上記の貸付用不動産の評価方法の見直しに伴い、一定の不動産小口化商品についても、取得時期に関わらず通常の取引価額に相当する金額によって評価することになりました。こちらの評価方法の見直しも令和9(2027)年1月1日以後に相続、遺贈又は贈与により取得する財産の評価に適用されます。
なお、既に貸付用不動産を取得していて、5年以内に相続が発生する可能性が想定できる方は、令和8(2026)年12月31日までに生前贈与をすれば「贈与時の評価額」になります。ただし、生前贈与では贈与税負担が大きくなるので、相続時精算課税制度との組合せも必要であるかもしれません。
令和8年度税制改正における貸付用不動産の評価方法の見直しは、未だ不明な点もあり理解しがたい面はありますが、租税回避等にならない節税対策は必要です。今後の改正の進捗に注目です。
Ⅱ固定資産税の基本
― 先程届いた固定資産税の納税通知書もう一度見てから納付しませんか。 ―
御社や御自身に、先月又は今月に、固定資産税の納税通知書が届き、不動産の所有者に役所が決めた金額を納付するものだからと、そのまま、金融機関の窓口等で納付されているのではないでしょうか。その通知書の入った封筒には「●●年度固定資産税・都市計画税 課税証明書」が同封されています。そこには、その不動産の所在地と評価額が記載されています。今一度、その所在地の不動産とその評価額を確認してください。ここでは、その固定資産税の基本的なことについて御説明させて頂きます。
■ 固定資産税の生い立ち
主要な税収として江戸時代はお米が税として幕府や藩が徴収していましたが、明治時代になり「地租改正」により土地に対して国が課税するようになりました。この土地に対する課税について、戦後の1950年になると「シャウプ勧告」によりその土地や建物に対して市町村が課税する「固定資産税」となりまし
た。この固定資産税の税収は2023年度には9兆8,073億円となり、2023年度の市町村税収は23兆7,144億円で、その内の約41%が固定資産税となりました。私たちの身近な行政である市町村の重要な税収ということになります。
■ 納税義務者
固定資産税の納税義務者は、毎年1月1日時点(賦課期日)の市町村の固定資産課税台帳に登録されている不動産(土地・家屋)の「所有者」です。原則、登記簿上の名義人がその所有者となりますが、未登記の家屋や登記名義人が死亡した場合は現に所有している人が納税義務者となります。
仮に、1月2日に土地建物を売却して、1月1日の所有者がその年は1日しか所有していなくても1月1日の所有者がその土地建物の固定資産税の納税義務者となります。 土地建物の売買があった場合、慣習で、固定資産税を売買時点までが売主、売買以後を買主負担として、その年の固定資産税を按分し、買主が売主に売買後分相当額を支払うことがありますが、税務上、固定資産税相当額として、売主にとり受領した金額は売却額の一部となり、買主にとり、租税公課という経費ではなく、土地建物の取得原価の一部となります。
また、共有名義の場合、 共有者全員が連帯して納税義務を負います。また、 1月1日前に登記名義人が死亡した場合は、現に所有する相続人が納税義務者となります。
■ 税率と課税標準
固定資産税額は、市町村長が決定した土地・家屋の価格(評価額)をもとに算定した課税標準額に対して税率を掛けた金額です。
その税率は、標準税率として1.4%ですが、独自の条例で異なる税率を定めている市町村があります。また、市街化区域内にある場合は都市計画税としてさらに0.3%(上限)が加算されることがあります。
固定資産税の税額を算出するにあたっては、「住宅用地の課税標準の特例」のように課税標準額が1/3になったり、「新築住宅(認定長期優良住宅を含む)にかかる固定資産税の減額措置」のように固定資産税の1/2の額が減額されたりします。また、土地は30万円、家屋は20万円の免税点があります。
※ 都市計画税は、都市計画事業または土地区画整理事業を行っていくうえで、費用に充てるために課税される目的税です。
課税標準は、基準年度(昭和33年度から起算して3年目ごとの年度)の1月1日における価格です。今現在は令和6年度の価格となります。但し、宅地については、課税の公平性の観点から負担の均衡化を図り、評価替えによる評価替えで急激な課税標準額を抑えるため税負担の調整措置がとられています。
■ 土地・建物の価格
市町村長は、固定資産評価基準によって、固定資産の価格を決定しなければなりません。 固定資産評価基準とは地方税法第388条第1項の規定に基づき、固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続を定めたもので、総務大臣が定め告示します。
土地の評価は宅地・農地等地目別に売買実例価額等を基礎として算定します。宅地については、地価公示価格等の7割を目途に評価します。
土地の評価は、地目や、地域によって評価方法が異なりますが、基本的には、「売買実例価額」を基礎として客観的に評価します。宅地であれば市街地にある宅地は主に「路線価方式」で評価され、「田・畑」であれば地域の標準的な農地の価格に比準して評価されます。「山林」は地域の標準的な山林の価格に比準して評価されます。「雑種地」であれば売買実例や近隣の土地の評価額を基に評価されます。
家屋の評価は再建築価格及び経年減点補正率等に応じて算定します。再建築価格とは評価対象家屋と同一の家屋について評価時点においてその場所に新築する場合に必要とされる建築費です。経年減点補正率とは 家屋の建築後の年数の経過に応じて生じる減価を基礎として定めた率のことをいいます。
■ 相続
相続で不動産を取得された相続人は、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をすることが令和6年4月1日より義務化されました。正当な理由なく相続登記の申請を怠った場合、不動産登記法第164条により10万円以下の過料に処されるのでご注意ください。
Ⅲ限界利益を生む仕組みづくり
― 金利上昇時代に備える―
日本銀行は2024年3月、マイナス金利を解除しました。昨年12月には政策金利を0.75%へ引き上げ、金利のある世界が復活しました。それは、今まで「ただで借りる」という感覚を捨てなければならない時代の到来を意味します。金融機関から既存借入金の利率引き上げを通知するはがきが届いていると思います。金利の上昇は、企業にとっての影響は資金繰りも含めかなり効いてきます。エネルギー価格や原材料など軒並み値上げの状況で、金利までもとお思いの経営者の方も多いでしょう。そこで今回は限界利益に焦点を当ててみます。
■限界利益とは
■粗利との違い
粗利(売上総利益)は、売上から商品製造や仕入れにかかるすべての費用を差し引いた利益です。限界利益は固定費を除外するため、粗利より高くなる場合があります。卸売業や小売業は限界利益と粗利がほぼ一致することもあります。
■限界利益を意識した経営
金融機関は企業の業績や財務状況をしっかり見極め、融資審査を厳格化する方向で進んでいます。同じ業種でも、好調な企業もあり不調の企業もあるような2極化が進んできております。要因の一つとして限界利益を意識して経営している経営者とそうでない経営者と読み解くことができます。
1.限界利益が黒字
売れば売るほど利益が上がります。従って、この商品をたくさん売る方向に舵を切ります。ただし、いつも同じように売れるわけはないし、限界利益も黒字のままではない場合も出てきます。原材料の値上がりや、値引きをしないといけないマーケットになることもあります。一定期間をもって見直しをかけなければなりません。
2.限界利益がトントン又は赤字
販売すればするほどキャッシュアウトしていきます。
従って、この商品を見限るのか、原材料価格や売価を見直すのかという選択肢を迫られます。商品によっては売る時期を見直してもいいでしょう。
ただし、これだけでは一過性にすぎず、一時はいいけど、そのうち収益力が落ちることになります。原材料やマーケットも変わらず限界利益の高い商品を見つけさえすれば、経営者は何もすることはありません。原材料価格は変動する。マーケットも変動する。ではどうすればいいのでしょう。
■限界利益を生む仕組み
経営者の大事な仕事は、仕組み作りです。仕入れる仕組み、売れる仕組みここはどなたでも「当然その仕組みはあります。」と答えるでしょう。ですがそれが完璧にできたとしても、利益を出すとはイコールとはなりません。まずは下記(左記)の図を見ていただき、考察していきましょう。
1.限界利益
会社全体の限界利益を出したうえ、個別商品の限界利益を算出
2.利益・赤字・0
利益の出ている商品、赤字の商品、利益トントンの商品の仕分け
3.見直し
赤字・0の商品は値上げをするのか原材料など直接変動費の引き下げをするのか見直し
4.制作しない
マーケット・原材料・価格転嫁見直ししても赤字の場合は商品としての価値創造できないため廃版とするのも経営者の判断
5.販売
利益の出る商品・見直しをして利益の出せるようになった商品は、しっかり販売する。
ここでも大きく利益を出す商品・薄利多売の商品が出てくる
6.定期検証
利益に貢献している商品でもいつまでも売れ続けることはありません。従って商品サイクルを考え常に何らかの検証は必要です。原材料が上がったタイミング・季節商品・在庫の割合・マーケットの推移など、検証するタイミングはいつもあります。そのタイミングも商品別利益管理までいかなくとも月次の試算表を常に見ていればわかってくるものです。
最後に金利上昇に伴い借入計画や返済計画も再度見直す必要があるでしょう。現在は金利以上に原材料の値上げに気を張って入ると思いますが、この指標とサイクルを回すことによって○○が●個売れれば、固定費は支払えるなどのイメージを社長が持つことができれば、当面の資金は大丈夫ではないでしょうか。
これだけ原材料が上がる経験がない経営者も多くいます。自計化や経理を再度見直し、数字に強く、限界利益を意識した経営体制を構築することをお勧めいたします。
今月のアプリケーション
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編集委員長 藤本 清
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