中小企業の健全性支援マガジン(毎月1日発行)

2025年3月号 No.403
経営のお役立ち情報
Ⅰ暦年贈与と相続時精算課税の選択はどうすればいい?
― 贈与でどちらを選択すればよいのか ―
令和5年度の税制改正において、暦年贈与では令和6年1月1日以後の贈与より、贈与を受けた財産を相続財産に加算する期間を相続開始前3年以内から7年以内に延長されました。これは昭和33年に導入されてから65年ぶりの改正でした。
また、平成15年に創設後、およそ20年運用されてきた相続時精算課税も大きな改正がありました。相続時に加算しない相続時精算課税の基礎控除110万円の創設、相続時精算課税で受領した土地・建物が災害により一定以上の被害を受けた場合は、相続時にその加算する課税価格を再計算する制度の創設がありました。
これらの改正は令和3年度与党税制改正大綱で「相続税と贈与税の一体化」「資産移転時期の選択に中立的な税制」ということに主眼をおいた結果としての改正で、できるだけ早いタイミングで高齢者から若い世代へ資産を移行させ経済を活性化させること、現在の贈与税の税率構造では富裕層による財産の分割贈与を通じた負担回避を防止するには限界があるのでこれを防止することなどが目的になっています。諸外国では贈与・相続にかかわらず税負担を一定としているケースは少なくありません。我が国の制度も諸外国の制度を参考に中立的な税制を目指していることが伺えます。
■ 暦年課税制度と相続時精算課税制度の比較
1.暦年課税制度
① 贈与を行う人(以下、贈与者という。)、贈与を受ける人(以下、受贈者という。)は誰でも可です。② 制度の選択制はありません。③ 基礎控除額は毎年110万円で、④ 課税価格は「贈与財産額-基礎控除」です。⑤ 税率は10%から55%の累進税率ですが、18歳以上の子・孫等(特例税率)は課税価額の範囲や控除額が変わります。⑥ 申告は課税価格が110万円を超えると必要になります。⑦ 制度利用に関する届出書提出は、必要ありません。⑧ 相続時の取扱いは、相続開始前7年以内の贈与には、相続財産に加算されます。(令和8年末までの相続等では相続開始前3年以内、令和9年1月1日以後の相続等から順次加算期間が延長され、令和13年1月1日以後の相続等から加算期間が7年になります。相続開始前3年超7年以内の贈与財産の内、延長された4年分からは100万円を控除します。)⑨ 贈与税額は相続税から控除されますが、控除しきれない贈与税額は還付されません。⑩ 制度の利用制限はありません。なお、相続時精算課税を選択した時点から暦年課税は利用できなくなります。
2.相続時精算課税制度
① 贈与者は60歳以上の父母や祖父母で、受贈者は18歳以上のその子や孫になります。② 制度選択は贈与者ごとに選択可能です。③ 基礎控除額は毎年110万円と相続が開始するまで2,500万円の特別控除があり、④ 課税価格は「贈与財産額-基礎控除-特別控除額」です。⑤ 税率は、一律20%です。⑥ 申告は課税価格が110万円を超えると必要になります。⑦ 制度利用に関する届出書提出は、最初に贈与を受けた年の翌年3月15日までに必要です。⑧ 相続時の取扱いは、毎年110万円を超える額は過去にさかのぼってすべて相続財産に加算されます。⑨ 贈与税額は相続税から控除されますが、控除しきれない贈与税額は還付されます。⑩ 制度の利用制限はありません。なお、相続時精算課税を選択した時点から暦年課税は利用できなくなります。
基礎控除額110万円ですが、暦年課税制度は1年間に複数の人から贈与を受けた場合、その贈与を受けた財産の価額の合計額から控除できる基礎控除額は贈与者の人数に関わらず110万円となります。相続時精算課税制度は1年間に複数の人から贈与を受けた場合、110万円を贈与者ごとの贈与税の課税価格で按分し、その按分した基礎控除額をそれぞれ贈与者から贈与を受けた財産の価額から控除します。また、特別控除額は、贈与を受けた人ごとではなく、贈与をした人ごとに累積で2,500万円まで控除することができます。
さらに、相続時精算課税制度を適用した財産の相続時価額は、原則として贈与時の価額(令和6年1月1日以後の贈与により取得した相続時精算課税制度を適用した財産については、贈与を受けた年分ごとに、相続時精算課税制度を適用した財産の合計額から相続時精算課税に係る基礎控除額を控除した残額)とされています。
■ 暦年課税制度と相続時精算課税制度の選択方法
どちらの制度を選択すればよいのかということですが、これは受贈者が誰か。年間の贈与額、相続までの期間等により暦年課税制度と相続時精算課税制度のどちらが有利なのかは異なります。本来ならば個々のケースごとでシミュレーションが必要であると思いますが、この紙面では無理なので一般論を記載しておきます。
暦年課税制度は、財産規模や年齢、年間の贈与額の多寡にもよりますが、長期的な計画(7年超)を立てて、年齢的に高齢でも心身ともに健康で10年、20年かけて贈与していくことに問題がないのであれば選択すればよいと考えます。
相続時精算課税は、生前贈与の期間が7年以内であれば有利です。その他、① 短期間で大きな金額を贈与したい人がいる場合、② 将来値上がりする財産がある人、③ 現在、値下がりしている財産がある人、④ 収益不動産を贈与する人、などは相続時精算課税を選択すればよいと考えます。①は特別控除が2,500万円と大きいことが考えられます。②と③は相続時精算課税を利用した財産は相続時には贈与時の財産評価額が適用されることが関係します。④は生前贈与しないと相続時に不動産価格とその不動産からの生じた収益のすべてに対して課税されるからです。
相続税対策は、実際に事が起こってからでは手遅れになることが想定されます。資産移転を円滑に、節税するためには、早めに対策していくことをお勧めします。
Ⅱ資本的支出と修繕費の区分
―実務上の留意事項など―
資本的支出と修繕費の区分については、実務上判断が困難な事例も多々あります。税務上、法人税基本通達において両者の区分についての「例示」が行われており、会計処理するにあたって参考にしていく必要があります。その「例示」されている事例等も含めて以下で記述していきます。
■資本的支出及び修繕費について
資本的支出とは、固定資産の修理、改良などのために支出した金額の内、その固定資産の使用可能期間を延長又は資産の価値を高める部分をいい、取得価額に含まれることになります。
一方、修繕費とは有形固定資産の通常の維持管理・原状回復・軽微な改修のための支出をいい、費用として処理可能とされます。
資本的支出と修繕費の各々のポイントは「使用可能期間の延長又は価値の増加」及び「維持または原状回復」であると考えます。
会計上、資本的支出と修繕費の区分は明示されておらず。実務上、どちらにするかの判断は税務上の取り扱いを検討することが必要になってきます。
■税務上の取扱い(1)
上記の内容を受けて、資本的支出と修繕費の関係について、税務上はどのような例示があるかについて見ていきたいと考えます。
1.資本的支出の例示
固定資産の修理・改良等のうち、価値の増加または耐久性の増加と認められる支出の例示は以下のとおりであります。
①建物の避難階段の取付け等物理的に付加した部分にかかる費用の額
②用途変更のための模様替え等改造又は改装に直接要した費用の額
③機械の部分品を特に品質又は性能の高いものに取り替えた場合のその取り替えに要した費用の内、通 常取り替えの場合に要すると認められる費用の額を超える部分の金額
また建物関連の修繕では、壁を取り壊して間取りの変更した金額も含まれると考えられます。
2.修繕費の例示
固定資産の修理・改良等のうち、通常の維持管理又は原状回復と認められる支出の例示は以下のとおりであります。
①建物の移えい又は解体移築の費用の額
②機械装置の移設に要した費用の額
③地盤沈下した土地を沈下前の状態に回復するために行う地盛りに要した費用の額
④地盤沈下による海水等の浸水額を防ぐ床上げ、地上げ又は移設に要した費用の額
⑤現に使用している土地の水はけを良くする等のために行う砂利、砕石等の敷設に要した費用の額
⑥壁紙やフローリングの張替えに要した費用
■税務上の取扱い(2)
税務上の取扱い(1)によっても資本的支出か修繕費か判断できない場合、以下のいずれかにより修繕費であるかどうかの判断を行うことが認められております。
①1件当たりの修理等に要した金額が60万円に満たない場合
②1件当たりの修理のために要した金額が修理等の対象となった固定資産の前期末における「取得価額」のおおむね10%相当額以下である場合
■税務上の取扱い(3)
修繕費として損金算入が認められる例として下記のものが挙げられております。
①1件当たりの修理、改良等のために要した費用の発生金額が20万円に満たない場合
②その修理、改良等がおおむね3年以内の期間を周期として行われることが既往の実績その他の事情からみて明らかである場合
■税務上の取扱い(4)
国税庁の質疑応答事例の中には下記の例もあげられております。
節電対策として蛍光灯をLEDランプに切り替える工事については節電効果などから資本的支出と考えることもできるが、LEDランプは建物付属設備の部品にすぎず、建物付属設備全体の「価値」を高めるとまでは言えないため、修繕費として処理することが認められております。
またソフトウエア関連では、ソフトウエアのバグの修正は修繕費として処理することが認められるが、新機能の追加があるものについては基本的には資本的支出と考えられます。
■最後に
実務上の判断は困難なことも多いと考えられます。迷った場合、支出の目的(例:機能の維持か資産価値の向上を目的とするものかを再確認)を再度明確化し、証拠書類を整備の上、過去の会計処理方法などの確認。そして、上記の事例などを参考にしつつ、事例ごとに慎重に判断することが望まれます。
Ⅲ中小企業におけるM&Aの現状と課題
―M&Aの負のイメージの払拭―
「M&A」と聞けば、どういったものかは浸透してきていると思います。しかしながら実際は、自分には関係ないものとしてお考えの方が多いかと思います。
現在わが国のM&Aの件数は、増加傾向にあり事業承継型も増加しています。2024年8月に中小M&Aガイドラインの第3版改訂が行われました。今回の改訂により、より安全でわかりやすく最終契約できるように専門家である仲介者・FAに求められる対応についても追記されています。まだまだ未熟な市場であるため国によるガイドラインをひとつの目安に置くことが重要となります。
■現状
1.マーケット
プレーヤー(仲介・FAを務める専門業者)が増加しており一部では問題のあるケースや事業者とのとのトラブルが増えています。また、小規模企業のM&Aを行うプレーヤーが限定的であり新たな参画者を必要としています。(まだまだ少ない)
2.中小企業庁
実務レベルでのトラブルが多いため中小M&Aガイドラインを策定し公表しています。専門業者向けの基本事項を拡充するとともに、中小企業向けの手引きとして、仲介者・FAへの依頼における留意点を拡充しています。
3.マインド
中小企業・小規模事業者において、6割以上がM&Aに共感が得られていないことが、調査によって
わかっています。これは会社を売ると周りの人に何と言われるかわからない。第3者への会社売却は恥ずべき事などという意識が根強くあります。
4.売り手の潜在需要
最初に述べたように後継者不在の事業者が127万社という数に比べてまだ年間1万件も成約していません。廃業する企業が増えるとその分雇用も減り、GDPも失われる結果となります。
■課題
1.プレーヤーの育成
まだまだ、専門業者間でのレベルの差が埋まってきておりません。市場そのものは未成熟ながら拡大を続けています。M&Aの取組への障壁が下がってきている中でプレーヤーの未成熟さが目立つようになってきております。より多くの専門家の育成がまだまだ課題と言えます。
2.情報量の不足
中小企業の多くは未上場であり企業情報を公開していないことが多いです。そのため買い手企業が売り手である中小企業の情報を入手するのが難しく機密保持契約を結ぶ前に開示されるノンネーム情報だけでは判断がつきません。こうした情報には金融機関や士業専門家といった周囲の支援機関が適宜企業に助言していくことが重要であり、そのためにも、周囲の支援機関がM&Aへの理解を深めることが必要となってきます。
3.費用
仲介者・FAだけでなく案件の規模などによっては支援機関などにも費用が発生し中小企業にとっては安くない費用が掛かります。案件の規模にかかわらずどの案件にも同じ業務が発生するので最低限かかる費用もあります。現在はマッチングなどをインターネット上で行い費用を抑えるようにはなってきていますが、支援機関同士が連携し専門性の補完やマッチングを図ることによって費用の低減化が求められます。
4.M&Aの過程における交渉
相手先を見つけたきっかけとしては、「第三者から相手先を紹介された」という当事者以外の第三者を介したものが全体の42.3%を占めており、その場合判断材料としての情報が不足しており、また相談相手も紹介されたところに限定されるケースが多く、それぞれの専門性について深く検討できる状態ではありません。支援機関の専門業者や士業で相談できる体制づくりが今後期待されます。
5.M&A後の統合の過程
最も頭を悩ませるのが「企業文化・組織風土の融合」になります。これが原因で従業員の離職や想定していたシナジー効果が発揮できなかったりします。専門的には「PMI」という工程が必要でいわゆるM&A成立後における経営の統合プロセスをいいます。日本では認知度がまだまだ低いのですが、このプロセスがM&Aの成否のカギとなります。まだまだ総合的なPMI支援を行える支援機関が少ないのも課題の一つです。
後継者のいない企業にとっては、廃業以外の選択肢が広がっています。まだまだ、成約はほんの一握りと言っていいくらいですが、徐々に浸透し広がってきています。赤字の企業や債務超過の企業でもM&Aの成功事例が出てきています。後継ぎがいないからと廃業に進むのではなく一度検討に値するのではないでしょうか。M&A後も1年くらいは「PMI」が必要のため、すぐにリタイヤということはほとんどありませんので該当する事業者の方は元気なうちに検討してみてはいかがでしょうか。
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編集委員長 藤本 清
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